りゅーじょーさん

by わなあた

　龍驤のまな板胸と云えば、鎮守府で知らないものはいない。胸囲は72を下回って
影も谷間もできないほどに平らである。横から見てかろうじてその存在を確認でき
る程度しかない。云わば平たく均されたまな板のようなものが、ぺたりんこと胸の
中心に鎮座しているのである

　れべる75を超えた龍驤は、2013/04/23のサービス開始から、2014/04/09改のイラ
ストの今日まで、むしろ小さくなっていく胸を苦に病んできた。勿論表面では、今
でもさほど気にならないような顔をしてすましている。これは専念に有象無象の艦
娘達が割拠する中で、エセ関西弁と貧乳キャラの組み合わせで確固たるポジション
を築いたのだから、キャラが埋没しないで済むのだし悪くはないと思ったからばか
りではない。それよりむしろ、自分で胸を気にしていると云う事を、人に知られる
のが嫌だったからである。龍驤は日々増産されるあまたの二次創作の中で、自分の
胸をネタにした作品がツイッターやまとめサイトにて大きく取り上げられるのを何
よりも惧ていた。

　龍驤が胸を持て余した理由は二つある。ひとつは実際的に、艦載機が間違えて平
らな胸の方に着陸しようとしたからである。（中略）

　ーーー無理にデカくしたので、人気が下がったのかもしれぬ。
　龍驤は、提督が常のごとく女体のシンボルたる部分へとスキンシップとうそぶき
セクハラを働くときのような恭しい手つきで、胸を抑えながら、こう呟いた。
　翌朝、龍驤が提督の布団の中で目を覚ましてみると、龍驤の胸が大きくなった途
端手のひら返しで結婚カッコ狩りを決めた提督に怒髪天を突いた金剛型の折檻で、
提督は血だるまになったがごとく赤い。至近距離で砲撃を受けたせいであろう、頭
髪は懐かしきドリフ大爆笑がごとくチリチリで煙がたっている。龍驤は、そんな提
督を鼻で笑うと、鉄格子の窓を鎮守府風鈴に模様替えして、深く息を吸い込んだ。

　ほとんど、忘れようとしていたある感覚が、再び龍驤に帰ってきたのはこの時で
ある。
　龍驤は慌てて胸に手をやった。手にさわるものは、愛宕すら裸足で逃げ出す爆乳
陥没乳首ではない。鎖骨あたりから股間まで、つるんぺたんと真っ平らと愛らい小
さな小さなサクランボである。昔のまな板胸である。龍驤は一夜のうちに、また元
の通り平たくなったのを知った。そしてそれと同時に、胸がでかくなった時と同じ
ような、はればれした心もちが、どこからともなく帰って来るのを感じた。

　――こうなれば、もう誰も哂うものはないにちがいない。
　龍驤は心の中でこう自分に囁いた。平たい胸を風鈴を鳴らす風にさらしながら。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（平成二十六年七月）


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　塵芥瘤之介　『胸』より抜粋