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2026-03-30 03:00:41 に投稿
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モイブリーの仕事風景(過去編その◼️◼️◼️

by Alchimie

暮期(我々で言う所の秋)のとある晩だった。
領地の端、ちょうど作物の収穫時期を迎えていた田畑の辺りで火を吐く異形の化け物が出たとして旦那様が領地全域に緊急宣言を発令。戦えるオス性全てをかき集めて応戦し、家を離れれるメス性全ては最寄りの避難所で応急手当所の開設と運営に当たった。
無論、旦那様のお屋敷に住まわせてもらってる私達給仕係も例外では無く、給仕長の指揮の下で次々に搬入されてくるオス性の方々の治療に当たっていた。

化け物が出たとの報告が出てから2~3時間ぐらい経った頃であろうか。だんだんと化け物の鳴き声、呻き声と、それを対処すべく戦うオス性の皆様とその先頭に立って指揮を取る旦那様の声がお屋敷に居てもうっすらと聞こえるぐらいにまで近付いて来ていた。お屋敷に運ばれてくるオス性の方々もそれに比例して増加していた。
「モイブリー!奥の薬剤庫から新しい手当て箱を持って来て!」
私と同じくお屋敷に住ませて貰っているヒト族奴隷の給仕長が私に指示を出す。
「は、はい!すぐにお持ちします!」
私は今しがた応急手当を終えた獣人族の方に毛布を掛け、すぐにお屋敷の地下にある薬剤庫へ向かった。
そして指示された、応急手当に必要な薬剤や包帯等が入れてある手当て箱を手に階段を駆け上がった時だった。お屋敷の出入り口付近が何やら騒がしかった。
「いけません第一息子様!旦那様はお屋敷に居ろと・・・!」
「うるさい!どけよ!俺だって父さんの、地主の息子だぞ!!学校の級友だって出てるってのに地主の長男が家に引きこもってて示しが付くかよ!!」
旦那様のたった一人の息子、まだ17歳の獣人族オス性が鎧と剣を手に屋敷から出ようとしていた所を給仕達に留められていたのだ。その言葉には無論、同年代の友までもが化け物に対峙してるのに自分だけのうのうと安全圏に居たと言われたく無いと言う見栄と自尊心があっただろうが、同時に、彼は14歳ぐらいの頃から自分は地主の息子で将来は父親の立場を継がなければならない立場だと言うことを自覚し始めており、その事もあったのであろう。だが―――、
「・・・いけません!旦那様は『万が一の場合は屋敷を守れ』、と申されて・・・!」
私も止めに入った。彼は後ろから増えた私の声に反応し私に顔を向けた。険しかった顔が少しだけ柔らかくなったように思えた。
「んだよ、モイブリー。お前まで言うのか?大丈夫だって、見ろ、確かにここまで入り込まれたけど流石父さんの指揮なだけあって、あのバケモノもボロボロだ。後ろからアレのケツを切って泣かせてやるだけだ」
彼が16歳の誕生日に旦那様、父親から貰った立派な長剣を叩きながらそう軽口を叩く。
「あのバケモノを泣かせて帰って来たらその後はお前を鳴かせてやるからな、あんまり血臭くなってるなよ!!」
そう言って彼は足留めしていた給仕達を振り切って走り出した。
「―――アラン様!!」
私は彼の、第一息子の名前をその背中にただ叫び付けるだけだった。
「モイブリー!こっちに早く!」
給仕長に呼ばれ、私も私の持ち場に走った。

そして再び薬剤庫に行き物品を持って屋外の応急手当場へ向かう所だった。
異形の化け物の背後から斬り掛かろうとする見慣れた後ろ姿、アラン様の姿が見えた。
化け物の死角を付いている。日々の鍛練の成果、余計な足音を立てずに駆け寄る脚術も完璧に見えた。そして宣言通り、長剣を両手で構え、化け物の股を斬り付けようとした時だった。
化け物の尻尾の先端が大きく開き、『火を吐いた』のだ。
その火の滝、火の濁流は、完全にアラン様を中央に捕らえていて。
いくら反応速度が良くて避けようとしても、絶対に逃げられなくて。
「ウワアアッ――――――」
闇夜に輝く赤黒い火の中に、彼は飲まれた。
もがいていた。逃げ場の無い火の滝に身体の外側も、口経由で身体の中まで余す事無く焼かれていた。
「ッ!!?アラァァァアンッ!!!!!!!!!!」
一瞬、間を置いて、事の重大さに気付いた、たった一人になってしまった家族が、目の前で、無惨に焼き殺された旦那様の、悲痛な叫び声が、聞こえて、


―――あぁ、ああ。
これは、夢だ。
あの日の。
また、この夢だ。
私がまた、失った時の。

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