サトノダイヤモンドはなぜゴールドシップを殺さなかったのか

by きゃんさあ

令和ウマ史の大きな謎の一つ、サトノダイヤモンドはなぜゴールドシップを殺さなかったのか。
多くの専門家が研究を重ねるも未だにその答えは出ない。

通説では、ゴールドシップはウマ娘を代表する偉大な芦毛ウマであったがゆえに、あえて殺人という手段に訴えることはしなかったとか、あるいはコ●ナ後の社会情勢を考えるとウマ娘界の問題児であるゴールドシップを殺せばたちまち業界全体を敵に回すことになりかねないため、やむをえず断念したとされている。

しかし、これについては疑問の声も多い。

サトノダイヤモンドといえば平成を生き抜いた大名家のウマ娘であり、同時に若干世間知らずで素直な性格から「里芋」「サトノ家のゴルシ特効」「クレイジーダイヤモンド」「近世最大のサトノダイナマイト（胸）」などの異名をとった女傑だ。

この「サトノ家のゴルシ特効」たる彼女がまさかゴールドシップに恐れをなしたなどとは、あまりにも説得力に欠ける意見ではないだろうか？

もし彼女がG1に怖じ気づいていたとしたら「ウマ娘殺しの凶器・ダイヤモンドブレイク！」なんていうトンデモないタイトルの小説を書くわけがない。
事実、この作品の内容に激怒した某ウマ娘がサトノの寮を襲撃した際に彼女は寮の自室に立てこもり、たまたま持っていたバナナで撃退したというから凄まじい。

さらに彼女はこの騒動の後、報復として「ぱかチューブつ！」（※注1）を配信停止に追い込んだというから徹底している。これらのエピソードからもわかるようにサトノが決して「平和主義」だったわけではないことは明らかであろう。
（※注1：ゴールドシップが宣伝担当（自称）を務めたウマ娘プリティダービーの公式Youtubeチャンネル。主にアニメや情報発信を取り上げたコンテンツが多く、当時のウマ娘ファンからの人気が高かった）

ともあれ、これでサトノがなぜゴールドシップを殺すことを思いとどまったのか、という問題は振り出しに戻ってしまった。しかし筆者はトレセン図書館で絶版になった「うまよん世界誌」（2018年3月30日より掲載、web漫画雑誌サイコミ発行）を見つけ出したことでこの問題に対する解答を得ることに成功した。
そこに掲載された元パクパクメジロ家当主メジロマックイーンとの対談でサトノはなんとゴールドシップを殺さない理由を自ら説明しているのだ。

――私はゴールドシップの首筋に手刀打ちをぶちかまそうとしました。
――でも結局やりませんでしたね。それでどうなるか、よく知っていますから。だってそうでしょう？　あの人にはメジロ家があったし、私にはキタちゃんもいたんですもの。そんな真似ができますか！
――それに私は彼を殺したかったわけではなく、ただあの人が偉くなりすぎているのに腹を立てただけなのです。（中略）とにかく私の気持ちとしては、ゴールドシップを殺すことはできなかったのですよ。それなのに、世間の連中ときたら何を言うと思います？　あんな120億吹き飛ばすハジケリストは痛い目を見た方がいい、と口を揃えて言うんですよ。全く酷い話じゃありませんか。私は迎合主義者どもとは違うので、絶対に殺すことはしないと誓ったのです。

ここでサトノが言及している「迎合主義者」というのは当時のマスコミのことである。
彼らはゴールドシップを持ち上げつつ一方ではその粗暴さを問題視しており、それが高じてついには彼を暗殺すべきという意見まで出る始末だったのだ。こうやってサトノは「世論」に逆らったためにゴールドシップを殺さず、あまつさえ彼を擁護したのである。

そしてサトノはゴールドシップとサクラバクシンオーの騒動の場にふらりと現れ「私が殺す前に勝手に死んだら、それこそつまらないでしょう？」「あなたはもっと長生きしてくださいね。ウマ娘ならレース場で死になさい」と言い放つ。なんとも女傑らしい言葉である（ちなみにゴールドシップ自身はその後一命を取り留めており、2016年に引退するまで現役ウマ娘として活動を続けていた）

また同紙にはメジロマックイーンが元トレセン学園生でありゴールドシップと義姉妹の間柄だった事も語られている。

しかしこれらのエピソードは当時のマスコミによって葬り去られてしまい、現在では断片的に伝えられるのみとなっている。マスコミにとっては両者が対立している方が話題性が高まり都合が良かったからだ。

新聞や週刊誌は読者獲得の為にサトノがトレセン学園前でトレーナーに熱いディープキスをしたとか、自らのダイナマイトボディを見せつけてゴールドシップのトレーナーに体当たりを仕掛けようとしたとか、シンボリルドルフとエアグルーヴが結託してゴールドシップを倒すべく媚薬入りの寿司を差し入れしたなどの嘘っぱちを平然と書きたてたのだ。まったくもって嘆かわしいことである。

このような事情もあって「サトノダイヤモンドはなぜゴールドシップを殺さなかったのか」は令和最大級のミステリーと化した。しかしその実態はサトノの良心と反骨心によるものであった。彼女は決して権力や暴力といった権威に媚びることなく自らの意思を貫き通し、その結果、偉大なウマ娘・ゴールドシップを救う事につながったのだ。まさに女傑ここにありという感じである。