ひと夏の思いで

by ととめき　ゆかる

「銀狐」
知ってるよ、狐の銀色のやつだとswitchを片手に僕は言いかけたが祖母はミズの皮むきをしながら話続ける。
「嘘つき狐だ。人にも狐にも嘘をつく。そんで人でもなく獣でもねえ姿にされちまった」
祖母の視線が一瞬祖父の遺影に向けられたのを僕は見逃さなかった。
「そいつがここいらの山に出る。マーくんは正直な子だからきっと大丈夫だ。けどあんまり家から離れるんでねえぞ」
＊
心地よい山の風を汗ばんだ腕や首に纏いながら、僕は祖母の家の裏の茂みで自由研究のために雑草の観察をしていた。知っている、知らない、知っている。これはヤマゴボウかな？もう少し山に入ればもっと珍しいマルミノヤマゴボウが生えてるのだろうか。
ちょっとだけなら・・・僕はそんなことを思いながら祠の横に続くけもの道へ足を踏み入れた。すぐそこで川のせせらぎが聞こえる。こんな近くに川があったんだ。せっかくだからちょっと行ってみよう。
川を目前にしたその時だった。
「あ」
僕は慌てて木の陰に身を潜める。
女の子だ。
裸の女の子が水浴びをしていた。
銀色の髪、少し黒い肌、そして・・・
「なにしてるのっ」
「うわあぁ！」
いつの間にか僕の背後から現れた女の子はいたずらっぽく微笑みながら僕の顔を覗き込む。
女の子の瞳は赤い色、頭の上には狐耳。水に濡れた少し黒い肌。
「あせかいてる」
と女の子。
僕は目のやり場に困り樹上の小鳥に視線を向けるがどうしても女の子の胸元、下半身に目を向けてしまいそうになる。
「き、きみは・・・」
「みずあび！いっしょにしよう！」
こうして僕は成す術もなく正体不明の女の子に手を引かれ、水浴びをすることになったのだった―――＜つづかない＞