【掌のバレエ萌え小説】聖なる捧げ物に纏わる快感
by 碓井央
パ・ド・ドゥを踊る快感は聖なる姫君を犯す快感でもある
もちろんぼくが直接彼女を犯すわけじゃない──でも彼女は踊りながら犯される彼女自身を演じる
ぼくではない誰かに犯される自分を演じる彼女──そのそばにぼくは忠実な従者のように寄り添っているだけだ
でもぼくはそんな立ち位置でも彼女を犯しているかのような錯覚に自ら望んで陥る──そのための足がかりを得ることができる
少なくとも役柄上は彼女の恋人役として設定されていることも思い込みの根拠のひとつではあるけれど
やはりパ・ド・ドゥという行為を見せつける対象──つまり観客たちが周りにいるからこそ錯覚が深まる
本来ならぼくが彼女を犯す役目を果たすはず──でもそれはバレエという厳格な枠組みの中では骨抜きになっている
だから錯覚を引き出すための雰囲気を作り出してくれる観客たち──彼らの気配の重なりはとても大切だ
不思議なもので──たくさんの人々の感情が一斉に同じ向きに動くとそれははっきりと舞台の上まで伝わってくる
踊りに同期して揺れ動くその気配の群れのおかげでまるで自分たちが世界の中心であるかのように思えてくる
彼女を側で支えているという小さな錯覚が──やがて彼女を仲立ちにして観客たちと繋がっているという幻想へと膨らむのだ
もちろん観客たちが意識の焦点を当てているのは彼女自身ではなく──その添え物のぼくでもない
彼らの総意によって成立しているこの神聖な儀式への捧げ物としての一組の男女の躰なのだ
聖なる生贄が視線の群れに侵犯され貪られる──それはまさしく残酷な祝祭空間そのものだ
それでも生贄には生贄ならではの──生贄になれない連中には分からない快感がある
そんなねじれ切ったぼくのささやかな優越感さえもきっと舞台の上ではあからさまになっているのだろう
※2022/6/8画像修正
おすすめのDL同人作品
同人作品PR