冒険の書
by かっさんどら
スライムとは、液体と固体の性質を併せ持った半透明の魔物である。読者諸氏にとっても馴染み深い魔物だとは思うが、今だにスライムによる捕食によって命を落とす村人は多い。どうか慢心せず、正しい知識を身に付け、スライムによる被害を0にして欲しいと思う◆奴らは人間を獲物と見るや、愛らしい少女の姿に擬態する。当然これは罠だが、そのままその場を立ち去れば問題はない。奴らは臆病な性格をしており、逃げるものを追いかけたりはしないのだ。また、万一接近を許したとしても慌てることはない。奴らは獲物のそばに寄ってこそくるが、居眠りでもするか、慌てて棒キレで叩いたりしない限り、積極的に捕食を開始することはない◆奴らの捕食は、獲物を体内に誘い込み、溶かすことによって行われる。それを可能にするのが、奴らの特殊な肉体である。表面はひんやりとした感触でツルツルとしているが、力を入れて指などを立ててみると、ずぷずぷと体内に侵入できてしまう。奴らが眠っている獲物にまたがり、自重によって獲物全体を体内に取り込む姿を、私は旅の途上で何度も目にした◆次に、弱点も記しておこう。奴らの弱点は2つある。1つは熱だ。松明などを一箇所にしばらく当て続けていると、その周辺の肉体が粘性の液体に近づくらしい。手足に当たる部分を溶かしてしまえば、しばらく身動きがとれなくなる。もう1つの弱点は、心核と呼ばれる器官である。切っても叩いてもダメージを負わない液体のような身体を持つ奴らが、唯一固体のまま保持している器官である。一説によると、そこに生命としての情報と機能が詰まっているらしい。事実、繁殖の際は、心核が分裂することが確認されている。この器官には、我々で言うところの神経があるらしく、ここを刺激されると極めて過敏な反応を示す。この時、捕食のための溶解液を出すことができなくなるようだ。私自身も、手順に従いスライムを退治したことがある。熱で溶かし、何か固く、長細いもので心核を刺激する。奴らは、心核を守らんとして体内に侵入してきた異物を絞めつけてくるが、我慢できないほどの力ではない。緊張を強いられ、恐怖もあったが、なんとか撃破することができた◆もちろん、魔物には近寄らないことが最も大切ではある。だが、正しい知識をもってすれば、決して恐れるような相手ではない。万一の場合には、この記録を思いだし、冷静に対処して欲しい。(「冒険の書」)
おすすめのDL同人作品
同人作品PR