合法的猥褻行為としてのパ・ド・ドゥの可能性

by 碓井央

「例えばパ・ド・ドゥを踊りながらキスしたりしたら、そのときはもうどっちも性的にスイッチ・オンだと思う」
「そういう状態にあるときって猥褻行為にあたるのかな？」

　「とは限らないんじゃないか」
　「演技にだって興奮は伴うし、結果としてオンしても致し方ない」

「相手が未成年の場合はどうなんだろうね。青少年なんとか条例で言う『淫行』にあたるんじゃない？」

　「どうなんだろうな。まあ恋愛関係にある少年少女の場合には必ずしも『淫行』とは判断されないらしい」

「でも、パ・ド・ドゥで組むことはあくまで『仮』の関係だし……持続的な恋愛関係じゃないでしょ」

　「『仮』の関係で果たして思春期の少年少女がキスなんかできるもんかね？」

「そりゃあ分かんないよ？　演技の上だとしても異性とキスできるチャンスを逃すかな？」

　「そもそも未成年のパ・ド・ドゥの振付にキスを入れる大胆な指導教師はいないと思うけどな」

「キスのふり、っていう指定だったのに結果としてキスしちゃった大胆な王子様はわたしひとり知ってるけど」

　「……合意の上じゃなかったのか？」

「さあ、どうだったんだか」
「でも、少なくともお互いに興奮しながらパ・ド・ドゥを踊る少年少女の猥褻感は半端ないよね」

　「自分たちが公開猥褻行為をやってるっていう自覚があるからだろ」

「とくに王子様の方はね。小学生でもクッキリそのものが浮き出てるしね」

　「……あれはトラウマもんなんだぞ。女子には分かるまいが」

「いやいや。分かってますよ。というか想像かつ妄想していますよ。そのトラウマに耐えながら踊る王子様だからこそエロさもまたひとしおなのですよ」

　「男は観られることに慣れてないんだよ」

「でももう今となっては気持ちいいんでしょ？　ビデオ見る限りはそんな感じだよ？」

　「開き直ってるだけさ……剥き出しの欲望を晒すことでしか、自分の立ち位置を見つけられないんだってね」

「健気ですね」

　「そう思うんなら振付にあんまり変なアレンジを入れないで欲しい」

「それはまた別。これからのパ・ド・ドゥは濃厚な猥褻感の演出はもはや不可欠なんだから……」