王子と舞姫の涅槃
by 碓井央
その動きが踊りの中の偶然だと受けとめられるとはもちろん思っていなかった。しかし、すくなくとも偶然だと言い張れるだけのわずかな余地は残っていたかもしれない。
ただ、実際には私たちの興奮は必然だった。振付も予め決められたものである以上、必然。必然と必然の重なり。果たしてそれでも偶然に過ぎないと言えるのかどうか。
いずれにせよ、すべては見聴きする人々の心が決める。
私たち自身は甘美な愉悦に浸っていた。それは確かなことだ。
踊りの時空がもたらす愉悦に加え、稚い肉体の感触がもたらす官能の愉悦。その重なりあいを私たちは貪り耽っていた。
ヒトとしての形を保ったまま……お互いがヒトだと認識する形を保ったままで、快楽に耽ることの罪深さ。それが羞恥の塊となって身体の内側から響き、震える。
まして、数々の物語の中でも典型的な役柄に扮したままで。だが、それは歴史とともに重なりあった禁止と侵犯のアルゴリズムの渦が導いた形なのだ。
だからこそ私たちの魂は、闇との境、子宮の無意識の底にとらわれたまま、言いようのない愉悦を堪能するしかなかった。
その激しい羞恥と愉悦は、生きたままであることを意識しながら、無意識という不連続な死へ、生きたままの死へと近づくための依代でもあった。
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